2011年9月3日土曜日

Rations of the German Wehrmacht in World War II

Jim Pool and Thomas Bock著
Schiffer Military History
2010年発行
第二次大戦におけるドイツ軍のレーションがパン、乳製品、食肉製品、果物・野菜、飲み物、調味料、甘い物、アルコール飲料、非常食といった章に分けられて紹介されている本です。この分野にはたくさんのコレクターがいるそうで、そういった人たちの所蔵品(本物)や、本物を真似てつくった複製品、当時の写真にみられるレーションなどが、きれいなカラー印刷で300ページにわたってたくさん紹介されています。
多数の現物の写真に対して、説明文が付されていますが、筆者独自の調査による記述は多くはありません。説明の大部分はアメリカ陸軍Quartermaster Corps(需品科)の調査報告書にもとづいています。北アフリカ戦線で入手した頃から、アメリカ陸軍はドイツ軍のレーションについて調査していました。記述はかなり詳しく、容器の外観・表示、缶詰なら缶の製法や缶内の圧力や隙間の大きさ、入れられている食品の外観、臭い、味などなど詳細に記述されています。
外観・臭い・味については、素晴らしいと評価されているモノもありますが、「アメリカ兵なら食べたがらないだろう」というようなかなり辛口の評価のモノが多くなっています。ドイツの前線強襲時特別食詰め合わせの中のビスケットなどは「その香りについて「表現しようがない、アメリカのレーションにも一般小売り品にも似たものはなく、強いていえばイヌ用のビスケットに似ている」なんて書かれているほどです。
読み終えての感想ですが、この本はコレクター向けの豪華な図鑑です。モノについての説明はとても詳しく載っています。しかし「レーションに関する兵站システムの説明はほかでも入手しやすいので、詳しくは記さない」と著者が書いているように、兵站を扱った本ではありません。東部戦線に送られたレーションの種類や量や原産国の比率や、現地の部隊は充分にレーションを入手できていたのかどうかとか、そういったことについては、本書ではわかりません。
では図鑑である本書を読んで得るところがないかというとそんなことはなく、初めて知ったことはたくさんあります。例えば、
  • ドイツ赤十字がイギリスにいるドイツ兵捕虜に食糧を送っていた
  • アルミ缶やリングプルオープンの缶がすでに使われていた
  • ラミネートチューブのなかった頃の歯磨きのペーストや絵の具で使われていた 金属製のチューブがチーズなどの包装に使われていた
  • ドイツ軍のマニュアルには包装、容器はリユースするため物資集積所に送り返すこととされていて、「暖を取るために箱を燃やしてはならない」なんて書かれていた
  • FANTAの起源は、第二次大戦開戦でコカコーラ原液を入手できなくなったドイツのボトラーが、1940年にリンゴ酒の絞りかすとチーズ製造の副産物からつくった飲み物だった
  • 満期除隊や傷病で後送されたりする時に、総統からの贈り物(小麦粉・砂糖・ジャム・マーマレード・バター・ハチミツなど合計11.5kgの食品)が送られた
この本のつくりはというと、かなり厚手のアート紙に全ページカラーで印刷されています。またカバーだけでなく表紙裏表紙もカラー印刷の豪華な本です。でも印刷製本を安くあげるためか、Printed in Chinaでした。私の経験では、医学書にしても歴史の本にしても、洋書というのは用紙や装丁が質素なかわりに安いという印象がありました。しかしこの本はその例外で、英語の本でも実用的な専門書は質素でも、趣味の世界の本は豪華ということなのでしょうね。

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