2011年8月26日金曜日

生成文法の企て

ノーム・チョムスキー著
岩波現代文庫G253
2011年8月発行
ヒトには普遍的に言語機能が備わっていて、子供は生後の入力に対応してその言語機能を成長させて母語を習得する。実在する個別言語の文法に原理・パラメータ論を適用した研究から、ヒトに生来内在する言語機能の文法である普遍文法が見いだされつつある。私は、生成文法というのはこんな風なものだろうと勝手に理解していて、しかもとても魅力的だと感じています。
ヒトの発生について、からだの形態の詳細の設計図があるわけではなくて、遺伝的に決められた材料に環境という物理化学的な条件が加わって発生の過程が進むと、ふつうのヒトの形態になる確率が高い。なんらかまれな条件が加われないと、ふつうからはずれた形態(奇形)にはなれない。こういう考え方と、普遍文法の存在と言語の習得の関係はとても似ているように感じる点が、私にとって生成文法を魅力的にしているのだと思います。
しかし、こういった関心をもつだけの門外漢にとって本書は難しく、うわっつらだけ読んだという結果に終わりました。この本は「訳者による序説」と「生成文法の企て」と「二十一世紀の言語学」の三つからなっています。「訳者による序説」は「インタヴューで行われている様々な議論の理解のために最低限必要な知的背景の説明」を目的としていて、私のような素人にも分かるようにかみ砕いて書かれています。
しかし、インタヴュアーとチョムスキーさんの対話で構成された「生成文法の企て」と「二十一世紀の言語学」という本書の肝の部分は、「訳者による序説」以上にもっともっとしっかりした知識をもっていないと、得心して読むことができない感じです。チョムスキーが研究をはじめてから半世紀以上が経過しています。生成文法という考え方が現在のかたちになるまでには、多くの議論と発展があったはずです。それらのエピソードをより多く知っているほど、インタヴュアーの質問の意味がよくわかり、またチョムスキーの回答にうなづきながら感心できる、そんな本のように思われました。同じ岩波現代文庫に入っている言語のレシピとは、想定読者がかなり違うようです。当面、文学部言語学科に入学して勉強するのは無理そうなのですが、チョムスキーのインタヴューを楽しく読むにはどんな風に勉強したらいいのかな。
306ページに「オリジナルよりもずっと出来のいい人口の臀部」という表現があります。「臀部」は英語版ではhipだったのでしょうか。それなら股関節と訳すべきでしょうね。

0 件のコメント: