2011年6月10日金曜日

鹿州公案

藍鼎元著 宮崎市定訳 
平凡社電子書籍版東洋文庫92
税込み1470円
藍鼎元さんは清朝の雍正帝期に広東省の潮陽県知事をつとめたことのある人です。彼は事情により知事としての仕事は2年しかしませんでしたが、裁判も行うことも県知事の仕事の一つで、彼は名判官と評されるほどの手腕を発揮して事件を処理しました。公案という語は中国で裁判記録を意味する言葉でもあるようですが、この鹿州公案は彼が残した裁判に関するメモなのだそうです。
あの宮崎市定さんが「旧中国の実態を記した書として、これほど面白いものはないと思う。本当に小説より面白いのである」と通り、載せられている23の事件はどれも読んで面白いものばかりでした。拷問が当然のように行われたり、裁判官である知事の直感が難事件を解決するキーになっていたりするので、現在の眼からすると基本的人権などといものは誰の眼中にもなかったのだなと感じますが、当時の現地の人たちが名判官と判断したのですから、彼は有能な人で彼の行為が賞賛すべきものだったことは確かでしょう。中国なんて現代でもこんなものという感じもしますが、福島第一原発の事故に至った経緯や事故後も原発を擁護する意見が絶えないなど、原発をめぐる癒着の構図を考えれば、この話は日本にも当てはまるような気がしてしまいました。
この本は総合図書大目録というサイトからiPadで読むために購入しました。東洋文庫は興味深い本が多いのですが、絶版になっているものも少なくありません。また東洋文庫の造本はタイトバックになっていて開きにくく、寝っ転がって読むには読みにくい感じです。そういう点を考えると、電子書籍として東洋文庫を提供してもらえるのはとてもいいことだと思います。
ただ、電子書籍と銘打ってはありますが、この本を電子書籍と呼ぶのには多少躊躇する点がないわけではありません。というのも、いわゆる自炊本と同じく、スキャナで取り込んだものらしいからです。テキストデータはないようで、検索などを期待するとだめです。まあ、スキャナで取り込んだとはいっても図のようにきれいに読めますし、もともと新書版くらいの大きさの東洋文庫の一ページをiPadの画面一面に拡大し、iPadを眼に近づければ高度近視の私でも眼鏡をはずして読めます。眼鏡なしで読めることと、実物の本と違って開きにくさがないこと、これは寝っ転がって読むうえでは非常に重要なことですから。
過去に出版された本はこういうかたちで「電子書籍」になってゆくようになるんでしょうか。お値段税込み1470円は元々の東洋文庫も安くはない叢書なので仕方がないんでしょうか。でも、実物の本を購入するという行為は、入手した本を積む・置く・飾ることをも可能にしてくれる衒示的消費でもあると思うんですね。電子書籍ではそうはいきませんし、しかも本書は中のテキストやイメージのデータを自由にいじれない自炊本タイプですから、実物の本と同じくらい値段では高いと感じてしまう人が多いんじゃないのかな。まあ、絶版の東洋文庫を寝転がって読む用にはほかに選択枝がないので、ほかのものも買うかも知れませんが。

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