2010年9月7日火曜日

戦国軍事史への挑戦



鈴木眞哉著 洋泉社歴史新書005
2010年6月発行 本体860円
疑問だらけの戦国合戦像というサブタイトルが付いていて、長篠の合戦で織田軍は三段打ちなんてしていないとか、織田氏が進んだ軍隊を持っていたとは言えないとか、これまで通説として語られてきた合戦像が間違っているとする本です。これまでこの著者の本は読んだことがありませんでしたが、著者の主張は「挑戦」という感じではなく、私には抵抗なく受けとめることができ、面白く読めました。
例えば、合戦の死者の死因を著者は調べていて、弓、礫、そして鉄砲伝来後は鉄砲といった飛び道具による死者が多いことを明らかにし、日本人は飛び道具主体の遠戦を好んだと書いています。礫については、印地打ちなどという習俗も思い起こされて興味深い。また、日本人が遠戦を好んだというのも、決戦状況でなければ自軍の構成員をなるべく死なせたくないでしょうから、遠戦で優劣が判明すれば、劣勢と判断した方は近接戦に移行することを避けて、そうなるのでしょう。などなど、著者の主張は無理ない感じ。
ただ、感心する点ばかりだったかというと、そうとも言えないかな。通説・俗説にのっかって、それらを元に一般向けの著作を著す専門家に対する批判が本書には非常に目立ちます。それほど批判するなら、それらに代わる著者独自の見解が随所に示されているかというと必ずしもそうではなく、何が正しいのかまだ分かっていないということを示すだけに終わっていることの方が多い。「疑問だらけの戦国合戦像」という著者の認識は正しいと読んでいて感じましたが、ではなぜ疑問だらけなのかというと、史料の不足が最大の原因でしょう。教科書や通俗読み物の需要が常にあり、書いて欲しいと依頼されること・書きたいことのすべてに基礎となる明解な史料を必ず自分で見出さなければならない訳ではないでしょうから(専門誌への投稿でpeer reviewされるもの、専門書なら話は別)、通説・俗説とされる考え方に沿った記述が含まれることも許されると私は思います。それらの書き手を非難してばかりというのは下品な感じです。

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