2010年3月21日日曜日

講座日本経営史1 経営史・江戸の経験


宮本又郎・粕谷誠編著 ミネルヴァ書房
2009年12月発行 本体3800円
1995年から岩波書店が出版した日本経営史のシリーズから15年経って、新たな日本経営史の講座がミネルヴァ書房から出版されました。江戸時代と明治時代以降の関係については断絶説と、江戸時代をearly modernとしてとらえる連続説があります。本講座では、明治以降へ関連にも触れる問題意識から第一巻の対象期間を1600~1882年としています。
岩波の日本経営史1巻の近世的経営の展開の方は、三都の大商家の経営組織、経営管理、雇用形態、労務管理、簿記技法などが主に取りあげられていて、それ以外には薬種商や醤油醸造業の事例がとりあげられているだけでした。本講座の1巻である本書にも、大商家の労務管理・雇用形態を簡単にあつかった章もあります。しかし本書の旧講座に比較しての特徴としては、明治以降との連続がみられる酒造業・醤油醸造業・織物業・陶磁器業、明治以降との断絶が目立つ製糸・紡績・造船・機械製造などの製造業についての章があることや、また金融や物流についても章立てされている点が挙げられます。製造業に関しては、私が名著だと思う中岡哲郎著「日本近代技術の形勢」や鈴木淳著「明治の機械工業」の成果が取り入れられていますが、本講座が狭い意味での経営史ではなく、広く技術史・経済史的な目配りをしていこうとする姿勢をあらわしているのでしょうね。
また、前講座1巻には、心学・国益思想など経営理念についての章がありました。それに対して本書には法制度・金融制度・信用制度などについての項目があります。文化的な特色に注目する流れから、経済を支える制度について着目する歴史制度分析の流行という風潮を反映しているのでしょうね。
この分野の過去15年間を振り返ると、私がつい最近読んだだけでも
といったような成果が出版されています。本書は3800円と比較的お安く値段が設定されていて、教科書として使われることを想定しているのかなと思いますが、1巻を通じてこれらの成果を反映したオーソドックスで理解しやすい記述になっていると感じました。
読みやすい教科書という全般的な印象の中で例外は、第3章労働の管理と勤労観のI~IV節。これを書いているのは友部謙一さんですが、この人の日本語はあいかわらずひどい。なので、スムーズに読めない感じなのと、例証が恣意的というか結論が飛躍するというか、そんな印象です。この人の主張には小農自立や小作制の評価など見るべき点があると感じるだけに残念。それに加えてこの第3章I~IV節では、注がなってないのです。例えば、100ページの(3)は126ページに注(3)があるのですが、そこの最後には「双系制社会を想定した最新かつ信憑性の高い見解は田中(2008)をみよ」と書かれています。田中(2008)ってどんな文献なのかなと思って131ページ以降の参考文献のところを見てみると載せられていません。注(4)の永原慶二(2007)や注(5)の勝俣(1996)も参考文献リストにはありません。本にする前のゲラのチェックとかしないんでしょうか。
本筋とは関係しませんが、198ページの「技能者の職方と武士の士官とを峻別する旧幕府海軍の体制が残された」という記述。これは、日本海軍の兵科士官と機関科の関係についての淵源を述べているのでしょうか。兵科士官と機関科の関係は、イギリス海軍では士官が貴族出身だったのに対して機関室の技師が平民だったことに由来するものだと思っていましたが、それ以外の流れもあったわけですね。

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