2010年1月24日日曜日

中世の書物と学問


小川剛生著 
山川出版社日本史リブレット78
2009年12月発行 本体800円

中古・中世の漢籍には施行(しぎょう)という制度がありました。詳しい仕組みは不明ですが、おそらく博士家によって正しい読み下し方を示す訓点が施された本が施行済みになるのだろうとのこと。未施行の書物は、例えば元号の出典とはされなかったとか。また、例として花園上皇の日記が紹介されていますが、博士家の説に従って漢籍を読むことを「読む」というのに対して、博士家の説がない書物を読むことを「見る」と表現して、区別されていました。「読む」行為からは決まった解釈が導かれることになりますが、「見る」だと自分勝手な解釈を許す余地があるのでけしからんとも花園上皇の日記には書かれていたそうです。中世の人たちの考え方が現在とはかなり違っていたことがよくわかるエピソードです。

また、「古典」というものがただ古いものというのではないことを、続明暗を例に著者は説いています。私は読んだことがないのですが、続明暗というのは水村美苗さんという小説家が、漱石の未完の小説である明暗に続ける形式で書いたエンターテインメント小説なのだそうです。ただ、これが発表された当時は批判が多かったそうで、たしかに続明暗でググって出てくる書評も批判的なものが多い印象。で、この続明暗に対する批判が出てくるのはどうしてかというと、明暗がすでに侵すべからざる存在、つまり古典となっているからだろうと著者はいうのです。そして、本書で取りあげられている中世は、源氏物語などが古典になっていった時代なのだそうです。 この説明にも感心。

リブレットなので百余ページと薄い本なのですが、こんな感じで面白く読めました。

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