2009年8月8日土曜日

検定絶対不合格教科書 古文


田中貴子著 朝日選書817
2007年3月発行 本体1400円

教科書といえば歴史の分野ばかりが問題なのかと思っていましたが、そうではないようです。
  • 本来なら易しい明治期の文章から教えはじめればいいのに、古文で教えられる文法が平安時代のものなので、収録されている作品が平安〜鎌倉期のものに偏っている
  • 性的な意味を含んだ文章の掲載が忌避されている
  • 現代国語と同様に、登場人物の気持ちを問う設問によって、道徳教育的な誘導がされている
  • 後世に書かれた想像による人物画が挿入されていることが多く、作者のイメージが変に固定されやすい
などなど、いろいろ問題があるそうで、勉強になりました。

また、第一部では教科書によく採用されている5つの文章を読みなおすという企画がされています。例えば、中宮定子の「香炉峰の雪はいかならむ」という問いに清少納言が御簾を上げたことで有名な枕草子の「雪のいと高う降りたるを」の段。定子をかこむサロンの雰囲気を称揚するために書かれた枕草子なので、自慢話を書いたわけではないと今では解釈されているのだそうです。でも教科書には、清少納言を高慢ちきな女性としてとらえるような設問が載せられています。というのも、女性はその能力をあからさまに発揮すべきではなく控えめにすべきという道徳的な意味が込められているからなのだとか。また、白氏文集のもとの詩からこれは定子が朝寝坊した日のことなのではとか、いつもなら開けてあるはずの格子が閉じられていた理由なども検討されています。

ほかの例でもそうですが、読み込むと細かな点までもが文学的にはいろいろと検討の対象になりうるということが分かってびっくりしました。説話や戦記物語なんかは文庫本で読んだことがありますが、こういう例をみせられると、読んでいながらその文章に込められた意味を多々見過ごしていたのだろうと感じさせられます。

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