2009年7月3日金曜日

言語都市ロンドン 1861-1945


和田博文・真銅正宏・西村将洋・宮内淳子・和田桂子著
藤原書店 2009年6月発行 本体8800円

パリ・上海・ベルリンにつぐ言語都市シリーズの4冊目で、帯には日本人の遺した膨大なテクストから描く「実業の都」とあります。685ページとこのシリーズで一番ページ数が多くなったそうで分厚い本ではありますが、堅苦しいモノではないので、夏休みに読むのにちょうどいいような感じです。

ロンドンはパリやベルリンよりも在留日本人の数が一番多かったヨーロッパの都市です。このヨーロッパの三都市の在留日本人の内訳を見ると、芸術家はパリに多く、学生はベルリンに多かったのに対し、ロンドンには銀行・商社など企業関係の人の数がパリ・ベルリンよりずっと多かったそうです。そのため、立派な日本人会があり、日本人経営のホテルや日本食レストラン・雑貨店などなどがありました。日本人の医師や歯科医師もいたそうですが、イギリスの医師免許を持って開業していたのかどうか気になってしまいます。

本書の内容は、主に明治・大正から日英開戦前までの各時代のロンドンの様子を日英の歴史を交えてまとめられ、またジャーナリズム・婦人参政権・ジャポニズムなどのテーマを取りあげてロンドンとの関連が記述されています。さらにそれに加えて、各時代にロンドンを訪れたり滞在した30人の日本人のロンドンでの生活・交友関係などが彼らの著作・日記・書簡などをもとに再構成されています。戦前の日本人の洋行がどんなものだったのか、分かるような気がします。

日英開戦後、イギリスに滞在していた日本人はマン島で抑留生活を送ることになり、1942年7月に日英間で抑留者の交換交渉が成立して、交換船で帰国することになりました。しかし、全員が帰国を希望したわけではなく、永年イギリスで生活していた日本人船員など、残った人がいたのだそうです。本書で取りあげられている上記30人全員は著名人です。できれば、この残留を帰国した船員たちのように、イギリスに根付いて生活していた無名の人の記録を発掘して載せてくれていたらなあ、と無い物ねだりの感想を持ちました。

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