2009年6月7日日曜日

日英中世史料論


鶴島博和・春田直紀編著 
日本経済評論社
2008年7月発行 本体6000円

2001年4月(だいぶ昔です)に熊本大学で開かれた同名のシンポジウムを記録した本です。日本側と英国側から5名ずつが発表し、本書には加えて解説のための序論・まとめが収められています。私の場合、イギリスの中世史については全く知識が無く、読んでいてそういう史料があるのかという学びや「はあ、そうなんですか」という感想ばかりでした。また、両国の5つの論考は同じような史料を対象としたものどうしを対にしてあるのですが、その対比から何かを理解できたかというと難しい。ただ、日本の側の論考はどれもが、比較史料論という意味でなくて、ふつうに史料を対象とした論考として面白さを感じさせてくれるものでした。

例えば第9章「文書・帳簿群の分置システムの成立と展開」。高野山金剛峯寺を例に、文書の収集を自覚的に始め、文書の数が増えてくると重要性や日常業務での必要性などから分類して保管場所を分けていったこと、またその経緯に金剛峯寺内での勢力争いが絡んでいたこと、室町時代になると膝下荘園の訴訟関連書類の内の重要なものを荘家の百姓たち自身に管理させるようになったことなどが述べられています。荘園領主の文書管理の歴史自体だけでなく、荘家の百姓が自ら管理するようになる契機が興味深く感じられました。

また、第5章「生死の新規範」では日本人を主人公とした最初の往生伝である日本往生極楽記がとりげられています。この書物は日本で浄土教が普及していたから書かれたという訳ではなく、本書を入宋する僧侶に託して日本にも浄土教が存在していることを中国の仏教界などにアピールする目的で書かれたという鋭い指摘に感心してしまいました。

イギリスの史料についての論考も含まれているので、本書は横書みになっています。先日読んだ中近世アーカイブズの多国間比較も横組みでした。 インターネット上でも横組みで紹介されるものを目にする機会が多くなってきているためか、日本の近世以前の史料が横組みで本に掲載されていてもそれほど違和感は感じません。ただ、漢文の返り点とかのある文章だと横組みは無理そうですが。

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