2009年1月4日日曜日

「萬世一系」の研究


奥平康弘著 岩波書店
2005年3月発行 本体4900円

この本が出版されたのは、女帝を容認するかどうかなどの皇室典範改正が論議になっていた頃です。しかし、著者によるとその数年前から用意していた原稿をもとにしたものなのだそうで、敗戦後の皇室典範制定過程と明治の皇室典範制定過程での論議を、天皇の退位・女帝・庶出の天皇という三つの観点から、検討しています。2006年9月に悠仁親王が誕生して以来、皇室典範改正論議は下火になってしまいましたが、それにも関わらず読んで面白い本でした。

皇室典範という特別な名前がついているので幻惑されやすいのですが、現行の皇室典範が法律の一つに過ぎないことが指摘されています。GHQから示された英文草案では単にiImperial House Lawとなっていて、本来なら皇室法とでも訳すべところを皇室典範と訳すことによって、国体が護持されたこと、大きな変化がなかったかのように装った訳ですね。

天皇制は萬世一系を誇っていますが、男系で続いて来れたのは庶子でも天皇になれた点が重要でした。キリスト教圏の君主国で女帝・女系の王位相続があるのは、嫡系の子しか王位に就けないので女帝をみとめないと王位継承者がすぐに払底してしまうからだそうです。明治天皇も大正天皇も庶出で、明治の皇室典範は近世以前からの伝統をついて庶出の天皇をみとめていました。現行の皇室典範は嫡系男子しか天皇になれない決まりですから、皇嗣
が絶えてしまう恐れが現実のものとなっているのです。今後も、この恐れは続くでしょうね。

終章では、天皇の脱出の権利・退位の自由を主張していますが、著者の天皇制に対する考え方は私の日頃考えていることとかなり一致するかなと感じました。現在の日本には、声高に天皇制廃止を求める人は少ないと思います。私も、改憲して天皇制を廃止してしまえとまでは、求めません。ただ、次のような風な、消極的な天皇制の消失についてはあってもいいのではと思います。

皇族が特別な地位にあり、生活費が日本国から賄われているなどの「特権」を享受していることはたしかです。しかし、彼ら彼女らは、学問・職業選択・意見表明・婚姻・居住・信教などなどの自由が大きく制限されているし、プライバシーにも問題があるでしょう。「特権」と不自由の入り交じった立場に違和感を感じない皇族のヒトもいれば、嫌で仕方がない皇族のヒトもいるだろうと思うのです。現在の皇室典範では内親王と、王・女王(三世以下の嫡男系摘出の子孫のこと)には、その意思に基いて皇室会議の議をへて皇族の身分から離脱することができる規定になっています。これを天皇・皇太子を含めた皇族全員に拡大するような皇室典範改正はなされるべきなんじゃないでしょうか。 まあ、引退後の山口百恵が取材の人たちにつけまわされて、ゴミ袋まで持ち去られて調べられたエピソードもあるので、皇族から離脱しても完全な「ふつうのヒト」にはなれないでしょうが。

そして、そういう改正の後、皇族にとどまりたいと思うヒトがいなくなってしまって、天皇制が消滅してしまうのはありだと思うのです。もし、そんな改正は無理だというのなら、日本国憲法によって基本的人権が損なわれている人たちが、なるべく「ふつうのヒト」に近い生活(北欧の王室なんか、そんな感じなのかな)が送れるようにすることは日本国政府の責務だろうと思うのです。もちろん、家や職のないひとの生活・基本的人権を守ることも急務ですが。

0 件のコメント: