2008年12月6日土曜日

加藤周一の訃報

昨日、加藤周一さんが亡くなったそうです。 これで、戦後を感じさせる進歩的文化人では、あと鶴見俊輔が残るくらいになってしまいました。私は彼らが精力的に活躍し影響力を持っていた時代よりかなり後に大人になった世代ですが、それでも「戦後は遠くなりにけり」と感じてしまいます。

彼の作品の中では、日本文学史序説がほんとに面白いのでおすすめです。タイトルに序説とついていますが、他の著者の本にもXXXX序説というのがいくつもあるので、恐らくこの評論が書かれた頃には序説と銘打つのが流行だったのでしょう。で、実際の内容は序説と言うには広範な、万葉集から戦後文学までの日本の文学、それに加えて日本文化全般に関する評論になっています。

この中で彼は日本文化の特質をいくつか指摘しています。抽象的な思考が苦手で独自のものを生み出すことはほとんどなく、輸入の抽象思考、たとえば仏教などもやがては世俗化されてしまったこと。新旧交代ではなく、旧い形式と並行して、新しい形式が付け加わって行くこと。全体の統一より、細かい部分に遊びを見いだし、細部にこだわること。集団の内外の区別の鋭い意識を共有する仲間の集まりが存在したことなどなど。こういう特徴は、現在の日本のガラパゴス的進化を遂げていると言われるケータイ電話機の仕様・性能や、アニメ、コミケ。2chなどにも充分当てはまるような気がします。

彼は89歳で亡くなったそうですが、つい最近まで朝日新聞に夕陽妄語というタイトルの文章を月に一回、連載していました。仕事柄、高齢者と接することは多いのですが、この年齢の男性でしっかりしている人って女性と違ってとても少ない印象です。90歳近くまで知的能力をあまり低下させずに過ごせたのは、なぜだったねしょうか、興味があるところです。

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