2008年11月25日火曜日

マギー キッチンサイエンス


ハロルド・マギー著 共立出版
2008年10月発行 本体6000円

単なるhow toやレシピをのせた料理の本ではありません。いろいろな食材の説明も載せられていますが、調理科学っていう学問分野があるのかどうか知りませんが、主には調理や食品の加工について物理・科学的に説明してくれている本です。出版元もお料理の本というより、自然科学書の出版で有名な共立出版で。

例えば、卵の泡立て方が5ページにもわたって述べられています。卵を泡立てると「卵やカスタードが熱で固まるのと同じく、物理的ストレスによってタンパク質の構造がほどけ互いに結合しやすくなることにより、卵の泡は安定になる」のだとのことです。卵白の中では折りたたまれて存在していたタンパク質がほどけて、卵白の液体と空気の境界面に、疎水性の部分は空気側に親水性の部分は液体側に向けて位置することによって泡を固定させる訳です。
泡立てる際に泡を強化する方法としては、小麦粉・ゼラチンなどを加えて粘度を高める他に、銅製のボールをつかう18世紀のフランス以来の方法があります。銅製のボールを使うと卵白タンパクのSH基が銅と結合して、他のタンパクと強く結合するのを阻害するのだそうです。また、卵白一個に対して酒石英小さじ1/8またはレモン汁1/2程度の酸を加えてSH基から水素がとれにくくするのも同様に泡を丈夫にしてくれます。
逆に、卵の泡立ての大敵は卵黄・脂肪・洗剤です。界面活性剤がいけないようですね。プラスチックのボールは表面に脂肪や洗剤が残りやすいので使わない方がいいと言われていますが、プラスチックから卵白にそれらがうつりやすいこともないでしょうから、ふつうに洗ったプラスチックのボールなら差し支えないでしょうとの著者の見解でした。
卵は古くなると卵白がさらりとしてくるので、卵白と卵黄を分離しやすいし、短い時間で泡立ちます。ただし、卵は保管しておくと二酸化炭素が脱けて次第にアルカリ性が強くなっていきます。なので、古い卵よりアルカリ性の度合いの低い新鮮な卵の方が、より安定した泡が出来やすいとのことです。

また例えば、ふつうの有塩バターですが、あの塩味はおいしさのためだけにつけられているものと思っていました。だって薄塩だし食品保存のためとは思えないでしょ。でも、大部分が脂肪で出来ているバターの中で、加えられている2%の食塩は水の中にのみ分布し、この水相中では12%の濃度に相当するので十分な抗菌作用があるとのことです。目から鱗の印象でした。こんな感じで多くの加工食品や調理法・調理のこつが科学的に説明されている点には本当に感心しました。お料理好きの人には一読の価値ありでしょうし、私のように大した料理などつくらない者にとっては雑学として面白い本でした。

また、本書には食材がたくさん説明されていますが、単なる食材の事典として使うにはいまいちかも知れません。索引まで合わせると850ページ以上もある本書ですが、食材ってたくさんあるので、全部に詳しい説明がある訳ではありません。また、本書にはカラー図版は全くなく、モノクロのイラストが少数載せられているだけです。なので、野菜・ハーブ・スパイスなどなど、個々の食材について知りたければネットを利用した方がいいでしょう。

アメリカで出版された本なので、調理法の科学的解説という点ではアメリカやヨーロッパ料理が主な対象となっています。ただし、食材・加工食品関連では、茶碗蒸し・鰹節・柿・豆腐・醤油・味噌・日本酒など日本の食品もかなりたくさん取り上げられていました。和食が流行っているのはたしかなようです。

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