2008年9月6日土曜日

地域交通体系と局地鉄道



三木理史著 日本経済評論社
2000年3月発行 本体5400円

東京から東北地方を結ぶ日本鉄道の成功以降、私設鉄道の設立ブームが起きました。本書でとりあげられた三重県・瀬戸内地方にも、山陽鉄道や関西鉄道という大きな私設鉄道会社が路線を持っていました。しかし、本書では幹線的な私設鉄道ではなく、地域内の小さな私設鉄道が対象です。地域内の鉄道の路線計画・建設とその地域の産業や港湾整備などとの関わりが論じられています。

私設鉄道設立ブームについては、日本鉄道の経済的な大成功を見て、多くの投資家がもうけのために、各地方の鉄道設立を計画したものかと思っていました。しかし、本書を読んで各地方の住民の間で鉄道を求める声が強かったことが理解できました。

例えば、三重県の津市から後背の安濃郡へ、約15kmの本線と約10kmの支線からなる安濃鉄道は、1912年に開業免許を鉄道省から交付されました。この当時の安濃郡は面積11.23平方里で、東京で一番大きな八王子市くらいの面積のようです。人口は34656人で、とても多いとは言えません。ほかにまともな陸上輸送機関がないので、切実な要望から建設されたのだと思いますが、利用する住民の数は多くはないので、省線鉄道や現在のJRが採用している軌間1067mmより狭い762mmの軽便鉄道として建設されました。

ただ、開業後も経営は順調ではなかったとのことです。現在ならこの規模の土地の公共交通機関はバスになるのでしょう(現代ではバスでも赤字になりそう)が、自動車のなかった明治時代なので軽便鉄道の建設となりました。ただ、自動車が導入されてバスが普及してゆく大正・昭和戦前期に、バスとの競争で多くの地方の小鉄道が経営問題を抱えることになる事情が開業時の状況からも見える気がします。高度成長期のモータリーゼーションが国鉄の赤字の一因となったことはよく知られていますが、マイカーの希だった戦前から、自動車と地域の鉄道は競合する運命にあったようです。

また、江戸時代以来の歴史を持つ都市では、官設でも私設でも幹線鉄道の駅が、土地の入手の容易さから中心から外れた位置に設けられたもののようです。地域内の小鉄道もやはり都市の中心まで路線を設けることが難しく、幹線鉄道の駅と同じ場所に駅を設けていない例もあったことが紹介されています。なんとなく、複数の鉄道路線の駅は同じ場所にあることが当たり前と感じていたので意外でした。

その他、江戸時代以来の港町が多数あった瀬戸内地方で、明治期に大きく発展してゆく町と衰退した町との違いなどについての論考も、こういった分野の文献に接したことがなかったので、新鮮でした。

0 件のコメント: