2008年4月23日水曜日

The Great Divergence



The Great Divergence
Kenneth Pomeranz著
Princeton University Press
2816円で入手 2000年発行



以前から他の本で取り上げられていて、面白そうだと思っていた本です。先日読んだ 海域アジア史入門 にも紹介されていたのですが、しばらくは日本語に訳されそうもないとのことなので、英語版を買ってしまいました。

The great divergence「大きな相違」というタイトルは、18世紀までの経済発展の程度に違いがなかった西ヨーロッパと中国・日本なのに、その後に西ヨーロッパだけが産業革命に成功するという相違が生じたのはなぜかという点を論じた本だからつけられているもののようです。本書の主張の要点はまとめると、以下のようになるでしょうか。

①ユーラシアの先進地域として、ヨーロッパ・中国・日本が挙げられる
②ヨーロッパ・中国・日本のそれぞれは一つの固まりとして扱うには内部の違いが多きいので、ヨーロッパにおける西ヨーロッパ(もしくはイギリス)、中国における長江デルタ、日本における畿内・関東を、比較すべき中核地域とする
③西ヨーロッパ・中国・日本の中核地域の生活水準は18世紀までは同程度だった
④西ヨーロッパ・中国・日本の経済は18世紀まで(所有権・自由な市場・発展した手工業・商品作物生産などの点で)同程度に発展していた
⑤西ヨーロッパ・中国・日本の中核地域はどれも18世紀には、食料・繊維原料・燃料・建築用材という土地集約的な資源の入手の点でエコロジカルな限界に到達していた
⑥西ヨーロッパに対する東ヨーロッパ、中国における長江中上流域、日本の畿内・関東以外の地方は、食料・繊維原料・木材・建築用材を供給することによって中核地域のエコロジカルな限界を補完する周辺地域としての役割を果たしていた
⑦東ヨーロッパは封建的な生産構造を残していたことが原因で、また中国・日本の周辺地域は人口増加とともに手工業の発展を指向したことが原因で、中核への資源の持続的な輸出増加を行うことが出来ず、さらに中核地域の製品の市場としても限界を示した。
⑧上記のような周辺地域の問題から、中核地域のエコロジカルな限界は完全には解決できず、中国・日本と西ヨーロッパの一部(デンマーク)では勤勉革命indsutrious revolutionにより、一人当たりの生活水準を低下させない途を選んだ(選ばざるを得なかった)、そして袋小路に入り込んだ
⑨イギリスを代表とした西ヨーロッパは、エコロジカルな限界に直面していた木材に代わって燃料となりうる石炭が利用しやすい地域に埋蔵されていた(中国の主な炭鉱は、長江デルタから遠い中国北西部)こと、新大陸を土地集約的な資源の産地・商品の市場として利用できたことから、産業革命industrial revolutionに成功した
⑩イギリスを代表とした西ヨーロッパが産業革命に成功し、中国・日本がその道をたどれなかったのは、イギリスを代表とした西ヨーロッパの技術・経済制度・政治などが優れていたからではない
⑪新大陸の銀の役割について、ヨーロッパにとってはアジアの産品と交換するための商品として利用され、ひいては奴隷貿易・銀の再生産を可能にしたが、中国にとっても貨幣制度の変革の時期に当たり国内で通貨として使用するために必要だったので3世紀にわたって大量に銀を輸入し続けた

総合してみると、つじつまはあっているなという読後感です。石炭を利用できたことの利点を強調している点は少し新鮮でした。新大陸との貿易がヨーロッパ内の貿易に比較して金額的には少ないからなどといった理由で新大陸の貢献を重要視しない論者もいますが、私は世界システム論好きなので、本書の主張の方に賛成です。また、本書の中にはブローデルや世界システム論者と著者の持論との違いが強調されている点もあるのですが、基本的には世界システム論に親和性のある筋立てのお話だと思います。

18世紀まではヨーロッパと中国と日本は別のシステム(中国と日本の間にも穀物や日常の繊維製品の貿易はなかったから、中国と日本も別々のシステムに所属していたと考えていいですよね)に所属していたわけで、それぞれの地域の中にそれぞの中核地域があることは当然のことで、その中核地域の経済が同程度にまで発展していたこともあってもおかしくないことです。

著者は、主に西ヨーロッパ・イギリスと中国の事例の比較から自分の主張を論証しています。日本の事例は中国の事例に比べて取り上げられている数がとても少ない。これは別に日本が重要でないからこうなっているというわけではなくいように感じました。

中国経済史に関しては英語で新しい本がたくさん出版されているようで、そこからたくさん事例が紹介されています。日本に関しては、主にHanley, Yamamuraの著書が参照されています。あの本は有名ですが、1977年出版とかなり古い。その後、日本経済史に関する英語で書かれた良い本があまりないということなんでしょうかね。

また、勤勉革命を成し遂げた日本の姿は「江戸システム」などという名前で一般の人にも知られるようになり、平和でエコロジカルな世の中だったということで賞賛されてもいます。ただ、よくよく考えてみると袋小路に入り込んでしまったという本書の評価の方が妥当な気もします。開港以後の日本の進路を見れば、少なくとも「江戸システム」の下で暮らしていた人たちは打開策があれば抜け出したいと思っていたのは明らかだと思うので、現代の私たちがあまりに自画自賛するのは行き過ぎですね。


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