2007年10月22日月曜日

武士から王へ  お上の物語

本郷和人著  筑摩書房(ちくま新書)  税込み756円  2007年10月発行

権門体制論を批判する東国国家論を継承する二つの王権論、理論としては未熟であるが、これを出発点として内実を構築していけば、汎用性の高い中世国家像を指し示すことができるのではないか、という壮大な構想の下に書かれた本書。私の感想はどうかといえば、がっかりです。

黒田氏の「日本中世の国家と宗教」も佐藤氏の「日本の中世国家」もともに読み進むうちに、その論の展開に引き込まれてしまった記憶があります。人を納得させる魅力的な筋立てが二人の著書にはありました。しかし、本書にはエピソードの提示はありますが、それが二つの王権論にどうつながるのか非専門家の私にまで分かりやすく提示されているとはいえませんし、権門体制論へ批判にもなっていないと思います。私も東京生まれ東京育ちですので、東国国家論・二つの王権論を魅力的に感じるのですが。

・「実力主義」「現実が先行する」
   なぜ、武士の中から将軍が出現せずに、頼朝が将軍になったの?
・ 「武力に拠って立つ鎌倉と平泉の王権は、性質が似通うために併存することができず」
   東国と朝廷は相互補完しながら併存したということになるのでは
・「初め、武士たちは統治権を効率よく行使することができなかった」
   簡単な漢字しか書けず仮名文字の日記を残したことが、その根拠になるの?
・「彼らの長たる将軍は、あくまでも武人として出発した」
   初代の将軍源頼朝は武人なの?武人の定義って?
・「永仁の徳政令。従来の研究は、かくも不条理な法令がどうして成立し得たのか、社会に受け入れられたのか、と問うた。そうではない。この法令はただに理不尽であり、身勝手なのである」
   御家人救済のために別の方法ではなくなぜこの方法がとられたのかを問う研究は非常に重要なのでは

 などなど、新書として発行されているが私のような非専門家には不思議に感じる点が少なくありません

152ページにある室町王権の限界は重要な指摘だと思います。日本列島(主に本州と四国と九州)の広さが統治効率に与える影響、その歴史的変遷みたいな分析はどなたかに期待したいものです。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

拙著をお読みいただき、感想を記していただきました本郷和人と申します。本当にありがとうございました。さて1月31日(木)7時より、新宿紀伊國屋ホールにて、いま人気沸騰中の作家、佐々木譲先生とご一緒に90分ほどのセミナーを開催致します。ご招待させていただきく、お知らせする次第です。よろしければ詳細をお伝えしますので東京大学史料編纂所のHP、古代史料部に記載されております私のメルアドあて、メールを賜りますよう、心よりお願い致します。